ユージン・ストーナーの正統な後継者はナイツ? KAC (Knight’s Armament Company) とは?
KAC (Knight’s Armament Company:ナイツ・アーマメント)とは、アメリカ合衆国フロリダ州タイタスビルに本拠地を構える銃器メーカー。M4A1カービンのオプション装備の拡張性を著しく向上させ、その後のアサルトライフルの「ハンドガード≒レールシステム」となる礎ともなったレール・インターフェイス・システム(Rail Interface System:通称RIS)を開発したメーカーとして有名である。
創設者であるReed Knight Jr.(リード・ナイト・ジュニア)は軍人の家系に生まれ自らも軍に勤務していたが、退役後すぐにKACを立ち上げたわけではない。元々機械いじりもライフルも好んでいたリードは、とある展示会で目にしたCadillac Gage社のStoner63(M63)にいたく感心し、またその設計者であるEugene Stoner(ユージン・ストーナー)が西側現代軍用銃の祖とも言えるAR-10、及びAR-15を設計した人物であることを知り、氏に興味を抱くようになる。
しかしその頃、ユージン・ストーナーは理想的な銃器開発環境を求め様々なメーカーを転々としており、2人が出会うには至らなかった。
KAC の設立とユージン・ストーナーとの出会い
1970年代半ば、リード・ナイト・ジュニアはアメリカ海軍特殊部隊SEALsからM63の修理を依頼される。アサルトライフルにもマシンガンにもなるという画期的なモジュール性能のM63であったが、Cadillac Gageでは既に生産中止となっており、その複雑さからユージン・ストーナーが去ったあと修理ができる技術者がいなかった。そこで、ユージン・ストーナーの設計を研究していたことを知るSELAs隊員が、リード・ナイト・ジュニアに技術者として目を付けたのである。
見事SEALsのM63の修理を成功させたリード・ナイト・ジュニアはその後も多くのSEALs装備品の修理や改修を行い、この実績を基に1982年に KAC を設立した。
KAC はアメリカ軍特殊部隊向けの銃器研究開発をアメリカ軍と共同で行っていたが、その噂がユージン・ストーナーの耳に入ることとなり、1990年に遂に2人は出会うことになった。
KAC SR-25
ユージン・ストーナーと出会ったリード・ナイト・ジュニアは当然彼を KAC に迎え入れ、最大の理解者を得たストーナーは早速AR-15ベースのライフルの開発に着手する。当時、既にCOLTへの発注が停止されていたM16を原型に、7.62×51mm弾仕様で精度を高めたセミオート・スナイパーライフルSR-25が1993年に誕生した。
SRはリード・ナイト・ジュニアが師と仰ぐストーナーの苗字をとって名付けた「Stoner Rifle」の略であり、25はストーナーがかつて開発したAR-10及びAR-15の数字を足したものである。この師弟関係の揺るぎなさは、その後のSR-15、SR-16、2023年に登場したKS(Knight’s Storner)シリーズの名称にもよく表れている。
SR-25はセミオートライフルとしては驚異的な精度を誇っており、標準仕様で0.75MOA(100ヤード先で0.75インチ以内)、マッチ仕様で0.5MOA(100ヤード先で0.5インチ以内)という数値を叩き出す。通常、ボルトアクションライフルでも1MOA未満を基準としていることから考えると、その精度の高さは尋常ではない。
SR-25の性能はSEALsをはじめとしたアメリカ軍特殊部隊に高く評価され、後に様々な改良を経て特殊作戦軍の制式マークスマンライフルとして採用された。現在でも多くの発展型が特殊部隊によって使用されている。
ユージン・ストーナーが開発したAR-10及びAR-15は、当時ストーナーが在籍していたArmaliteが財政難から製造権を売却したことによりCOLTが引き継ぐかたちとなったが、その精神を余すことなく受け継いだのは KAC であると言えよう。結果として、M16型ライフルは大量生産される一般兵装として普及を果たし、COLTによる開発で様々な派生モデルも誕生したものの、アメリカ軍からの受注停止を経てCOLTは業績が悪化し軍事部門は倒産。対して、 KAC は未だ軍用・法執行機関用含めアメリカ合衆国に留まらず特殊部隊向けライフルの製造・開発を続けている。
レール・ハンドガードの開発
現在では当たり前となったレールアタッチメント機能を持つハンドガードだが、これを開発したのは KAC である。それまではプラスチック製だったハンドガードと置き換えることでM4前方の4面にピカティニーレールを配置することが可能となるRIS(Rail Interface System)は、作戦や兵士の役割に合わせて多くのオプション装備を付け替えられるようにする「モジュラー・ウェポンシステム」として採用され、後に特殊部隊向けのSOPMOD(Special Operations Peculiar Modification) プロジェクトでも導入される。
RIS及び改良版のRAS(Rail Adaptor System)はM4が陸軍の主力ライフルとなって以降、一般兵装としても採用されるが、銃身に負荷を掛けるシステムであったため弾道の精度を落とす要因とされ、その後バレルナットのみに固定するフリーフロート式のFFRASを経て、URX(Upper Reciever eXtending)が開発される。
これらRISからはじまったレール・ハンドガード・システムは、現在では各メーカーが取り入れAR-15を構成する主要パーツの1つとして普及しているが、その礎を築いたのは KAC である。SRシリーズに見られる銃の基本性能を大幅に向上させる技術のみならず、このような汎用システムの開発においても、 KAC が現代ライフルの進化に与えた影響は非常に大きい。
KAC SR-15/SR-16
SR-25の開発によって高い技術力を見せつけた KAC は、その後M16ベースの5.56×45mm弾仕様ライフルの開発にも着手する。ストーナーの設計理念に基づき、ダイレクト・ガス・インピジメント方式を採用する点はM16と共通ではあるが、主要パーツの精度や耐久性を向上させ信頼性はM16を大きく凌いでおり、AR-15クローンのハイエンドモデルとして販売された。名称はSR-25同様にSRが与えられ、16インチバレル・セミオート仕様の民間・法執行機関用をSR-15、フルオート仕様の軍用をSR-16とした。
SR-15/SR-16の開発にもユージン・ストーナーが携わっているとされるが、残念ながら同氏は1997年に亡くなり、その完成を見ることは叶わなかった。
SR-15及びSR-16はSR-25同様に KAC を代表するライフルとなり、実銃界では勿論、ミリタリーマニアやサバゲープレイヤーの間においても特殊部隊装備のアイコニックな存在として君臨している。
現在では実質的にSR-16の後継とも言えるKSシリーズが登場し、13.7インチバレルを装備したKS-1がイギリス軍の特殊部隊用ライフルとして採用された。KS-1はL403A1の名称で調達され、順次SA80/L85系やL119系と置き換えが進むと言われる。
また、近年ではUSSS(アメリカ合衆国シークレットサービス)がKAC SR16E3 CQB MOD2のハンドガードを独自のURX5に置き換え、MOD2.1として配備。2024年の大統領選挙中におけるドナルド・トランプ氏銃撃事件の際には、同ライフルを携帯したUSSS CAT隊員の姿が多くのメディアによって報じられた。
KAC が開発した主なプロダクト
レール・ハンドガード
RIS(レール・インターフェイス・システム)
M4A1純正のプラスチック製ハンドガードと交換するタイプの簡易的なレールハンドガードだが、ピカティニーレールが前方に配置されることにより、様々なオプションを搭載できるようになり脱着も容易となった。
RAS(レール・アダプター・システム)
RISを改良した強化版で、アメリカ軍におけるM4用レールシステムの標準となった。
RAS2
第2世代のRASとして開発されたレール・ハンドガード。取付方法は第1世代と同様だが、トップレールを本体レシーバーのトップレールに固定できるようになり強度と精度が向上した。しかし、その固定部分が災いして肝心の光学機器の搭載に制約が生じる結果となり不評で、使用が見られることはあまりない。
FFRAS
RIS/RASから大きく取り付け方法を変更したフリーフロートタイプのレール・ハンドガード。M4のバレルとハンドガードを固定するデルタリングを廃し、代わりに大型ナットでバレルを固定。その上からハンドガード固定用のリングナットを被せる形でハンドガードを取り付けるため、バレルへの負荷を軽減しつつ射撃時のバレルの熱が射手に伝わりづらい。射撃精度の向上やストレス軽減を果たした。後のURXのベースとも言える存在。
URX(アッパー・レシーバー・エクステンション)/URX2/URX3/URX3.1/URX4/URX5/URX6
フリーフロートタイプであることはFFRASと同じであるが、レシーバーとハンドガード間にあった大きなリングナットを廃し、バレルナットがハンドガードの固定も兼ねる形に変化。レシーバーからハンドガードまでトップレールが連続的に繋がり、レシーバーからハンドガードをまたいだ形での光学機器の取り付けが可能になった。
URX以降は時代に合わせた改良や軽量化が都度施され、モデルチェンジする度にURXの名はそのままにナンバーが更新されるようになった。URX4以降はKeymodやM-LOKといった次世代のアタッチメントシステムに対応。
SRシリーズ
軍用ライフルの設計者としてリードが師と仰いだ故ユージン・ストーナーの設計理念に基づいた KAC のライフルシリーズ。他の大手メーカーから比べるとモデル展開は少ないが、主に特殊部隊向けのライフルとしてハイエンドなクラスに位置づけられ、アメリカ軍においては配備先に合わせて様々な派生モデルが誕生し、細かな仕様違いまで含めるとその種類は数知れない。
軍用モデルについては軍と共同開発され、現地隊員のフィードバックを改修に反映し高い信頼性を得ている。
SR-25
ユージン・ストーナーが KAC で最初に開発したとされるセミオート・スナイパーライフル。AR-10と同じ7.62×51mm弾を使用するが、AR-10ではなくAR-15(M16)が設計ベースとなりパーツの60%がM16と共通している。SR-25以降、他メーカーからも様々なAR10系ライフルが作られているが、2012年の時点では、いずれの製品も標準仕様ではSR-25の精度に大きく水をあけられる結果となっている。
SR-15
民間・法執行機関向けの5.56×45mm弾セミオートモデル。いわゆるAR-15クローンだが、AR-15設計者の意図を汲んだ開発により精度は一般的なAR-15より高い。価格も高い。
SR-16
SR-15にフルオート機能を持たせた軍用モデル。一部、フルオートモデルの配備を許された法執行機関でも使用されている。
SR-30
SR-15をベースとした、.300 BLK弾仕様。アッパーキットやロアキットも存在する。
SR-47
SR-15をベースに、7.62x39mm弾及びAK-47マガジンを使用できるようにした特殊モデル。
KAC 6x35mm PDW
6x35mmの専用弾を使用するPDW(Personal Defense Weapon)。ロアレシーバーは弾倉とトリガーアッセンブリー、ストックを除きSR16のままである。アッパーはモノリシックとなっている。生産はされておらず、プロトタイプのみが存在すると言われている。